檻の中



 火だるまになった少女が壁にぶつかりながら、音もなく死の舞踏を続ける。


 苦悶の表情を浮かべていた彼女は、やがて糸が切れたように動かなくなった。


 静かになった檻の中に、黒焦げの死体が一つ……。


 わたしは自分が焼かれたかのように、灼熱の炎と恐怖を全身に感じて呼吸を荒げていた。



 ──これは現実?


 こんなことが日常的に行われてるの……?



 ふと、画面の中から啜り泣きが聞こえた。


 耳を澄ますと、それは少女の主人の声だった。



『クッ……。ううっ……ごめんなさい、ごめんなさい……』


 なぜか、主人は泣きながら謝っていた。


 先ほどまで笑っていて、自分の意思で殺したくせに何なの……?


 変わり身の早い、異常な人格を感じてゾッとする。


 謝ったら自分の犯した罪が軽くなるとでも思っているのだろうか?



「──どうだ。人が死ぬ瞬間を見たのは初めてだろう」


 暗くなったモニター画面を見つめていると、イシザキの声が後方から聞こえた。


 楽しんでいるわけでも、怒っているわけでもない。


 感情のこもっていない声に、わたしはイシザキもこの非道な主人と同類なのかと怯えた。



「信じられない……。人間のやることじゃないわ、こんなこと」


 恐れながらも、正直な感想を口にする。


 もしこの少女がわたしだったら……と考えるだけで髪が逆立つほどの恐怖を覚えた。



「残念ながら、これが人間の性と言うものだ。貴様は、人間の残酷さや異常性を知る必要がある」


 イシザキはそう言うと、わたしの両手を固定していたベルトを素早く外した。


 うっすらと赤い痕がついていた。


 黒焦げになった少女の姿が頭から離れない。


 自分がまだ生きていると言うことに対して、わたしの中に安堵と感謝の気持ちが芽生えた。


 それと同時に、イシザキに対して畏怖の念が込み上げる。


 わたしを生かすも殺すも、彼次第なのだから……。



「“助けて”や“お願い”の無力さを痛感しているだろうな。異常者の前では、どんな言葉も通用しない。──それを覚えておけ」


 イシザキは不気味に笑うと、わたしを振り返りもせず部屋から出て行った。


 監禁生活はまだ始まったばかり……。


 次は何が起こるのか想像も出来ず、わたしは失意のどん底に叩き落とされた。







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