檻の中



 部屋の電気が消える。


 しかし、今度は両手を固定されることも、目薬をさされることもなかった。


 モニター画面に映像が映し出される。


 目隠しをされた裕太が上半身裸で横たわっていた。


 青い首輪を着けられ、鎖に繋がれている。



「……裕太っ!」


 わたしは反射的に身を乗り出して、モニター画面を食い入るように見つめた。


 あんな姿にさせられて、かわいそうに……。


 心配しながら固唾を飲んで見守っていると、カツカツとヒールの音が近づいてきた。



『ハーイ、ロミオ。いい子にしてたネ?』


 可愛らしい声とともに、すらりとした艶かしい脚が画面の端に映り込む。


 裕太の買い主の“リン”は若い女だった。


 はっきりと姿は見えないけど、深いスリットの入った赤いチャイナドレスを着ている。



『まだ眠ってるネ。ワタシと遊ぶヨ、ベイビー』


『うぅ……ッ』


 ハイヒールの爪先で軽くつつかれ、裕太は低い呻き声を漏らした。


 緩慢な動作で身体を起こすと、ヒビ割れた壁に気だるそうにもたれかかった。



『ワタシの可愛いロミオ。シャワーを浴びて、さっぱりしたネ?』


『……は……』


 裕太が口を動かし、かすれた声を出す。



『萌は……どうしてる? 声を聞かせてくれるって、約束した……』


 苦しそうに息継ぎをしながら言うと、裕太はガクッとうなだれた。


 体力がまだ戻っていないのだろう。



「裕太! 聞こえる? わたしだよ……萌だよ!」


 わたしは涙を堪えながら、画面に向かって声を張り上げた。


 その声が届いたのか、裕太がゆっくりと顔を上げる。



『萌……。萌なのか……?』






< 55 / 148 >

この作品をシェア

pagetop