檻の中



 モニターの電源が落ちた後も、わたしはその場から動けずにいた。


 真っ暗になった画面に、沈んだ表情の自分が映る。


 ひどい顔……。


 大きくため息をついてから、背後にイシザキの気配を感じて振り返った。



「辛いか」


 イシザキが静かに口を開く。


 わたしは歯を食い縛り、無言で頷いた。


 声を出したら泣いてしまいそうだった。



「選択権をやろう。ロミオの中継映像を定期的に見るか、一生見ないか……どっちだ?」


「えっ……」


 イシザキの思いがけない言葉に、わたしは顔を上げた。


 正直、虐げられている裕太の姿を見るのは辛い。


 リンに対して強い憤りを感じるし、精神的な苦痛に心を蝕まれそうな気がする。
 

 でも……。


 裕太に会えなくなるのはもっと辛い。


 わたしは覚悟を決めて、イシザキを見つめた。



「見れなくなるのは嫌です……」


「だろうな」


 予想通りの答えだったらしく、ニヤリとして背を向ける。


 イシザキはそのまま部屋から出て行った。



「ハァ……」


 椅子に身体を沈め、大きくため息をつく。


 ショックから立ち直れないまま、わたしはいつしか眠りの世界に誘われていった。 



 もう何も考えたくない……。



『……様。ジュリエットお嬢様』



 心地良い囁き声が耳をくすぐる。


 ──誰かいるの……?


 わたしは寝ぼけ眼で部屋を見回すが、誰もいなかった。



『ここですよ。私はここにおります』


 その声は目の前のモニターから聞こえていた。


 まさか……。


 恐る恐る視線を戻すと、画面越しに見知らぬ男がこちらをじっと見つめていた。






< 58 / 148 >

この作品をシェア

pagetop