檻の中



 鋭い切れ長の目、やや尖った顎、赤みを帯びた薄い唇……。


 黒髪をオールバックにして、黒いスーツに身を包んでいる。


 男は自信家特有のキザな微笑を浮かべながら、驚いて固まるわたしを興味深そうに見つめていた。


 知らない男ではあるが、その特徴的な声に聞き覚えがあった。



「あなたは……」


『改めまして、伴と申します。またの名は……ミスターB!』


 華麗な動作で外国式のお辞儀をして、歌うように自己紹介をする。


 やっぱり……この人がミスターBなんだ。


 扉越しに聞いた声と同じだった。



『お目にかかれて光栄です、ジュリエット嬢。とてもお美しい……。一億円の価値はありそうだ』


 値踏みするような目を向けられ、思わず表情が強ばる。


 喋るたびにチラリと覗く赤い舌が爬虫類を思わせた。



「……あの、何か?」


 薄気味悪さを覚えて、つっけんどんに言う。


 わざわざ遠隔操作でモニターを操り、わたしの前に姿を現した目的は何だろうか。



『フフフ……どうか警戒なさらぬよう。私は、貴女の力になりたいのです。なぜなら』


 ミスターBはそこで言葉を切ると、意味ありげにわたしを見つめた。



『不覚にも、貴女に一目惚れをしてしまったからです』


 告白まがいの言葉とは裏腹に、ミスターBは胸に手を当てながらニヤリとほくそ笑んだ。


 慇懃無礼とは、きっとこの男のことを言うのだろう。



「はぁ……」


『おや、その顔は信じていませんね? いいでしょう。見ててご覧なさい』


 ミスターBがシルバーの携帯を手に、恐ろしげなウインクをする。


 そしてどこかに電話をかけると、プルルル……と呼び出し音がマイクを通して聞こえてきた。







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