ちょっと黙って心臓
Cace.3:ダンデライオン
たとえば緊張したときとか。

たとえば運動したときとか。

心臓がどくどく波打つあの感じって、あんまり好きじゃない。


だからいっそ止めてやろうと思って、私は屋上のフェンスに、手をかけた。



「──ねぇ、パンツ見えちゃうよー」



ちょうどフェンスの中腹あたりに来たところで、間延びした声が背後から届いた。

バッと勢いよく斜め下を見れば、そこには自分と同じこの学校の制服を着た、派手な髪色の男子生徒がこちらを見上げていて。



「……なに、あんた。ほっといてくれない」

「いや、だって。そんなとこ登ってたら、パンツ見えちゃうよ?」

「いーわよ別に。それより早くどっか行ってよ」



不機嫌に言い放っても、その男はこの場を動こうとはしなくて。


……ていうか、なんなのこいつ。

普通いかにもこれから飛び降ります、みたいな感じで靴床に揃えてフェンスよじ登ってる人見たら、もっと動揺とかするもんじゃないの。

よっぽど肝座ってるの? それともただのあほなの? 


もうほとんど呆れたような私の視線を受けて、その男は手にしていたビニール袋を持ち上げると。

にっこり、私に笑いかけた。



「ね、おなかすいてない? メロンパン食べる?」

「………」



そのとき、ぐう、と小さく、私のおなかが空腹を主張して。

……まあ、どうせこの後死ぬんだからちょっとくらい誘いに乗ってもいいかな、なんて。

そんならしくないことを、考えてしまったのだ。
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