春に想われ 秋を愛した夏
駅前から始まっている、小ぢんまりと賑わう商店街。
目的の場所もわからないまま、小さな店たちが並ぶその道を歩いてみる。
歯医者さんや果物屋さん。
調剤薬局にお弁当屋さん。
総菜屋さんも斜め向かいにある。
色々なお店があるけれど、この通りにはコンビニがないんだ。と不思議に思いながら歩いた。
コンビニはあると便利だけれど、一人暮らしには、お惣菜屋さんやお弁当屋さんの方が、いい気がする。なんてまるで今からこの町に越してくるみたいに考えてしまう。
秋斗は、ここのお弁当を買ったりしているんだろうか。
ちょっと立ち止まって眺めていると、元気なおばさんが中から出てきて、お惣菜安くしておくよ。なんて声をかけられてしまった。
冷やかしのように立ち止まったことに申し訳なくて、苦笑いで足早にその場所を去る。
少し行くと、一軒家やマンションの立ち並ぶ住宅地になってしまった。
「何やってんだろ……」
自分にさえ分からない行動に、溜息を零して踵を返す。
そうしてから、さっきのおばさんにまた出会ってしまいそうなのが気にかかって、路地を一本隣に入って駅を目指した。
路地裏には、懐かしくも銭湯があって。
へぇ~。なんて、下町のような風情につい声が漏れた。
この辺の人は、この銭湯に通っているのだろうか。
まだ暖簾の出ていない外観をしげしげと眺めていると、すぐ近くから声をかけられた。
「わざわざこんなところまで、汗でも流しに来たのか」
昔ながらの銭湯に目を奪われている私へ背後から声をかけてきたのは、闇雲に逢いに行こうとしていた秋斗だった。
「それとも、俺に逢いに来たのか?」
驚いている私へ向ける自信満々の顔つきが、憎らしい。
だけど、違うとは言えずに口ごもる。
大体、あんな寂しい背中を見せ付けたくせに、今日の強気な態度はなんなのよ。と勝手に逢いに来ておいて心の中で毒づいた。