春に想われ 秋を愛した夏
「予定変更」
秋斗は不満げな顔つきの私を目の前にして一言言うと、強引に手を握って歩き出す。
「ちょっ、なに?」
「わざわざ逢いに来た女を、そのまま帰すと思う? それとも、マジで風呂にでも入りにきたわけ?」
皮肉めいたいい方が腹立たしいのに、その手を振りほどけない。
連れられるままに歩いて行くと、さっきのお弁当屋の前を通ろうとするから、思わずつながる手を強く引いて立ち止まった。
「なんだよ」
不機嫌な顔を向けられて、ここの前は、ちょっと。なんて意味のわからないいい訳を言ってみても通じるはずもない。
「行くぞ」
結局、そのままズルズルと店の前を通る羽目に。
すると、案の定。
「あらさっきのお嬢ちゃん。どう? お惣菜。美味しいよ」
やっぱりさっきのおばさんが話しかけてきてしまった。
「えっと、あの……」
どうしたらいいかと戸惑っていると、秋斗がにこやかに話し掛ける。
「おばちゃん、悪い。帰りに寄るからさ」
私とつながっていないほうの手を軽く上げると、訳知り顔でその前を通り過ぎた。
あんなふうに屈託なくお店のおばさんと話す秋斗が不思議で、私はマジマジとその顔を見てしまった。
「なんだよ」
秋斗は眉間にしわを寄せて私を見ている。
「なんか、馴染みすぎてて……」
可笑しい。と笑いそうになったけれど倍返しされそうで、なんでもない。と口をつぐんだ。