春に想われ 秋を愛した夏


「だいたい。その前に、彼氏いないから」

自虐的に言うと、わざとらしく、そうだった。と塔子が笑う。
そんな二人のやり取りを見て、今度は春斗がクスクスと笑っている。

「もう、彼氏がいないってところで笑いすぎ」

横に座る春斗を軽く押すと、ごめんごめん。とまた笑う。

「なんにせよ。僕が好きな人と一緒に住むような事があったら、料理は得意だから色々作ってあげたいかな」
「うっそー。春斗君て、料理上手なの? 食べたいっ」

うまく話題を逸らした春斗に、塔子が前のめりに食いつくようにしている。
その姿が可笑しくて、私と春斗は声を上げて笑った。

「もうっ。塔子ってば食いしん坊なんだから」
「美味しい物食べてる時と、お酒飲んでる時。あと寝てる時が、今は一番幸せなわけよ」
「男がいないから?」

仕返しのようにからかうと、そう、居ないから。とわざとらしい鋭い目つきで睨まれる。
その目を見て、春斗と声を上げて笑った。

「いいですよー。今度、野上さんちにお邪魔して、何か作りますよ。あ、パーティーします? 」
「いいね、いいねぇ。人が作ってくれたもの食べるって、幸せなんだよねぇ」
「だよね。うちら一人身は、自分で作るか、ここに来るくらいだもんね」

そういって笑うと、春斗が囁いた。

「香夏子の好きなもの、作ってあげるよ」

耳元でこぼれたセリフは、私にだけ届いていた。


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