春に想われ 秋を愛した夏
食材とたくさんのビールを買い込み、三人で塔子のマンションへ向かった。
部屋に上がると春斗は手を洗い、すぐにキッチンへ入り下準備に取り掛かる。
「何か手伝うことある?」
「私が訊ねると、じゃあこれ刻んでくれる?」
袋の中におさまるキャベツと、棚の上にあるフードプロセッサーを春斗が目で示す。
春斗が目で示したキッチンの吊り棚に収まるフードプロセッサーの入った箱を見て、意外だ。と塔子を見た。
家で料理をすることのない私たちに、凝った調理器具など無縁だからだ。
「塔子、フードプロセッサーなんて持ってたんだね」
「んん? ああ、まあね。前の彼に料理を作ってあげようと思って買ったんだけど、一度も使うことなくそれっきりよ」
買ってきたビールを冷蔵庫へ収めながら、過去の出来事をさらりと応える。
そして、一言。
「それより、ビール足りるかな?」
別れてしまった元彼のことよりも、思考は既にアルコールへ向かっているらしい。
そんなさばけた塔子に、私たちはクスクスと笑いを漏らす。
棚へ手を伸ばし、ほんのり時が経ち陽に焼けた箱を下ろした。
開けてみると、外箱とは違い、中身は未だ新品のフードプロセッサーが収まっていた。
さすが、一度も使っていないだけある。
苦笑いしながら中身を取り出し、ざっくりと刻んだキャベツを入れる。
しっかり蓋をしてスイッチを入れると、あっという間にキャベツが細かくなった。
「すごいね」
それなりに料理はするけど、フードプロセッサーなんて使ったことがなかった私は、この便利さにちょっと驚いた。
これなら、何でもあっという間に刻める。
便利~。