春に想われ 秋を愛した夏


春斗の料理を期待している塔子は、麻婆豆腐用の豆腐を取りにさっさと売り場へ行ってしまった。
その姿に肩を竦める私を見て、春斗が笑う。

「野上さん。相変わらずだね」

塔子の背中を眺めながら、春斗が懐かしそうな顔をする。

「久しぶりなのに扱き使うみたいになってるけど、大丈夫?」
「平気、平気。料理は得意って言うか、好きなんだよね。一人暮らしするようになって料理にチャレンジしてみたら、結構おもしろくなってさ。しかも、中華は、結構自信あるんだ。今日はお酒飲むからチャーハンはなしだけど、僕のチャーハンは絶品だよ」
「いつも控えめだった春斗がそんな風に言うなんて、相当美味しいってことだよね」

自信満々の顔をする春斗に私が驚いていると、僕も成長したんだよ。と笑顔をむける。

春斗は、秋斗と違っていつも遠慮がちだったり控えめだった。
前に出すぎることなく、いつも周囲に気を遣っているのが春斗という男だった。

何かしら得意なことがあっても、謙遜していたのが春斗。
逆に自慢げにしていたのが秋斗。

二人は、双子だというのに明らかに対照的だった。

もちろん、双子特有のシンクロめいたこともあるのだけれど。

例えば、ランチで同じ物を注文していたり。
同じ洋服や靴を買っていたり。
映画では、同じ場面で反応したり。
はたから見ていると、ちょっとおもしろかったりする。

そんな春斗がこんな風に前に出るような発言や行動をしていることに、私は少し驚いていた。

逢わない間の時間に、春斗は昔よりもずっと積極的になっていた。
まるで、今まで隠れていた私の知らない春斗が表面化したような感じだ。

逆に秋斗が控えめに変わっていたら、ちょっと面白いかもしれない。

ありえないことを想像して、つい顔が緩む。

「なに? なんか面白いことでもあったの?」

豆腐を取りに行っていた塔子が戻り、私の顔を見て不思議がっている。

「ううん。なんでもない」

私は、慌てて首をふった。


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