春に想われ 秋を愛した夏


感心しながら中身をボールに空けていると、刃が鋭いから気をつけて。
と春斗が忠告をした瞬間に、指を引っ掛けてしまった。

「イタッ!」

気づいた時には、ジワリと血が滲んで滴り始めた。

「香夏子っ!」

そばにいた春斗が慌てて水道で傷を洗い流し、血を止めようとする。

「ごめん。キャベツに血が少し入ったかも……」
「そんなの取り除けばいいよ。それより香夏子の指」

春斗は傷口を確認して、止血をする。

「大丈夫?」

少し焦った様子の塔子も、慌てて絆創膏と消毒薬を持ってきてくれた。

「こんなので間に合うかな? 何なら近くの薬局に行ってくるよ。それとも、病院」

塔子は私の傷を見ながら、自分の方が痛そうな顔をしている。

「平気、たいしたことないよ。ほら、このちょっと大きい絆創膏で間に合いそう」

少し大きなサイズの絆創膏を箱から取り出すと、塔子は安心したようにほっと息をつく。

「もう。気をつけなさいよね」
「ごめん、ごめん」

消毒をして絆創膏を貼り終えると、春斗がソファを指差す。

「香夏子は、見学ね」

おとなしく待っていろ。ということらしい。

はーい。と申し訳なさに返事をして、素直にソファに腰掛けた。


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