春に想われ 秋を愛した夏


お互いの就職先は知っていたけれど、連絡先を変えてしまえば何のことはない。
音信不通になるのは、容易かった。

秋斗が私と連絡を取ろうと思えば、塔子に聞き出せばいいことだし。
それをしなかったという事は、ふった相手とこれ以上は関りたくないからなんだろう。と私は考えた。

とは言っても、塔子には二人から訊かれても絶対に教えないで欲しい。とお願いはしておいたのだけれど……。

それにしても、あの自由奔放で人のいうことを素直に聞くとは思えない秋斗に、サラリーマンなんて続くのか、と当時みんなで笑ったけれど。
秋斗は、今でもちゃんとサラリーマンを続けていた。

あの、秋斗がだ。
本当に驚いた。

久しぶりに見た姿は、就職活動をしていた時のリクルートスーツなんかじゃなく。
ちゃんとサラリーマンをやっている、着慣れたビジネススーツに身を包んでいた。

秋斗にスーツなんて、とこれも塔子とよく笑っていたけれど、凄くよく似合っていた。
悔しいけれど、その姿をかっこいいとさえ思ってしまったくらいだ。

何も変わっていない物言いは相変わらずなのに、大学生の時よりなんだかずっと大人になっていて。
社会に出て揉まれてきたんだろうな、と男らしくなった姿を思い出してみる。

うちの会社に来るって事は、営業でもしにきたのだろうか。
契約を取るために秋斗が頭を下げている姿なんて、少しも想像できないな。

大学時代は、不満そうに口を尖らせて、人の言うことなんてそっぽを向いて聞いていない。
そんな人だったから、想像すると笑いがこみ上げてくる。


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