春に想われ 秋を愛した夏
クスリと笑いを漏らしていると、グツグツとお湯が沸いていることに気がつき、買った乾麺を鍋の中にパラパラと入れていると携帯が鳴りだした。
ソファに放り投げてあった携帯を取りに行きディスプレイを見ると、春斗からの電話だった。
秋斗のことを考えていた矢先だったせいか、すぐに通話ボタンを押すことができずに画面を見たまま躊躇っていると呼び出し音が途切れてしまった。
「これって、居留守になるのかな……」
呼び出し音の切れてしまった携帯を眺めながらポツリ呟くと、関係のない春斗に何をやってるんだ、とチクリ心が痛んだ。
かけ直したほうがいいかな。
そんな風に携帯に気をとられていたら、キッチンから鍋のお湯が勢い良く吹き零れる音が聞こえてきた。
「うわっ。やっちゃった……」
慌ててキッチンへ戻ると、溢れ出たお湯がレンジ周りを汚して、点いていた火が消えてしまっていた。
すぐにスイッチを押してガスを止めてから、吹き零れてしまった鍋を見て溜息をつく。
何か食べなきゃ、と言う思いが吹き零しで消えてしまった火のように、一瞬で消えてなくなった。
「もう、いや……」
汚れてしまったレンジ周りを拭くことも、吹き零れた鍋を片付ける気にもなれず、冷蔵庫から缶ビールを取り出してリビングの床に座り込んだ。
「結局、こうなるのよね」