春に想われ 秋を愛した夏
私は、掴まれた右手首に心臓が移動でもしたんじゃないかというくらいに、ドクドクとそこが脈打つのを感じていた。
もしかしたら、顔も赤くなっているんじゃないかと、いまだ想いの残る感情への悔しさと羞恥に下を向く。
「何、目逸らしてんだよ」
私が顔を逸らしたことが気に入らないのか、秋斗が不機嫌な声で覗き込んできた。
「べ、別に。ちょっと、気分が悪くなっただけよ」
適当ないい訳をすると、大丈夫かよ。と今度は心配そうな声で優しく訊ねてくる。
もう、なんなのよ。
人の神経を逆なでするように挑発してきたかと思えば、今度は縋りたくなるくらいの優しさを見せ付けてくる。
コロコロと変わる対応に、私の心は振り回されて、ついて行くことができない。
昔からこういう人だと思っていたのに、三年経った今でもうまく対することができないなんて、成長の欠片もないよね。
自分自身をコントロールできなくて、誤魔化すようにカップを手に持つ。
冷め始めたコーヒーを口にすると、酸味が出てきてちょっとしかめっ面になってしまった。
まだ時間に余裕があるのか、隣では秋斗が通りを行く人たちを黙って眺めている。
テーブルの上で組むように置かれた手は、男らしさの滲む骨ばった手で。
手の甲に浮いた血管がセクシーだ。
横顔を見れば、少し日に焼けて骨格がはっきりとして見える。
通った鼻筋と、薄めの唇。
瞳の二重は、今ははっきりと出ているけれど。
昔は、ちょっと寝不足になると片方だけ一重になるから、睡眠不足だとすぐに気がついたっけ。
寝不足なの?
そんな風によくおもしろがって訊いていたことを思い出し、なんとなく頬が緩んだ。