春に想われ 秋を愛した夏


朝といい、今といい。
どうしてこうも簡単に、私の前に現れてくれるのだろう。

そんなこと、望んでなんかいないのに……。

うそ。
本当は、逢いたいと思っていた。
偶然が、また起きればいいと思っていた。

朝の、「またな」って言った秋斗の言葉に期待していた。

だけど、素直になんかなれないよ。
ふられてから三年。
卑屈になるには、充分な時間でしょ?

素直になれない、過去に囚われている可愛げのない自分が嫌でも前に出る。

「何、言ってんの」

素っ気無く、ふざけないでよ。といわんばかりに言い返す。
なのに、強気な言葉とは裏腹に期待値は上がっていく。

「ちゃんと飯食ってるか、ちょっと気になったから」

心配するその態度が私を翻弄する。

「朝、ちゃんと食べてたでしょ」

うまく顔を見られずに視線を逸らすと、半分な。と秋斗が笑った。
その笑いに、一瞬心を許しそうになってしまった。

「実は、昼間。飯を誘いに行ったんだけど、すれ違ったみたいでさ」

やっぱり、秋斗だったんだ。
香夏子なんて呼ぶ人、そういるはずないものね。

「飯、食いにいかね?」

ランチの代わりに、と秋斗が誘う。
けれど、その誘いに乗る理由なんかない。


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