春に想われ 秋を愛した夏


さっき跳ね上がった心臓を、無理やりにでも押さえつけ、何とか平常心を保って秋斗を見た。

「心配なんて、される理由ない。ドリンクのお礼はしたし。もう平気だから」

ぶっきらぼうに応えて、逆に目を見返してやった。

強気な態度に出れば、引き下がる。
そんな簡単な相手じゃないことなど解っていたけれど、今の私にはそれくらいしか対処のしようがない。

「香夏子に理由がなくても、俺は心配だから」

案の定。
見返した目を更に真っ直ぐ見て言われ、逸らすことさえできなくなった。
まるで縛り付けるようなその瞳の強さに、身動きさえできなくなる。

その強引な態度は相変わらずで、他の人だったら絶対に頭にくるはずなのに、悔しいくらいに嬉しいと感じている自分が心底嫌になる。

どこまでお人よしなんだ。

自分に言ってみても、素直に反応している心を誤魔化せないのが事実。

傷つく覚悟もないくせに。

このまま無視して通り過ぎる事だってできたのに。

それもできずにその場に留まる私を見て、それが答えだとでも解釈したのか、秋斗は踵を返し、行くぞ。と歩き出してしまった。
一緒に行くのがまるで当たり前のような傲慢な態度へ文句を言うこともなく、少しの躊躇いだけでその背中を追ってしまった私はバカな女だろうか。


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