春に想われ 秋を愛した夏
感じの悪い態度を貫き通したまま、私は無言を決め込む。
渡されたメニューを見ながら、食べられるかどうかわからなかったけれど、焼き魚とあったかなご飯に煮物とお吸い物というように、せっかくだから、母親が愛情込めて作ったようなメニューを選んだ。
料理が出てくるまでの間、秋斗はポツリポツリと私に質問をしてきた。
ずっと同じ会社に勤めているのか。
今は何処に住んでいるのか。
塔子とは、今も仲良くしているのか。
彼氏は、いるのか。
そんな風に訊ねられた質問を私全て無視した。
応える必要なんて、ないでしょと無愛想なまま黙秘だ。
なのに、しばらくして目の前に出てきた料理のいい香りに、自然と目じりが下がってしまう。
「うまそうだろ」
つい緩んだ私の表情を見て、質問をことごとく無視されたにも拘らずまたも得意げな言い方をする秋斗は、まるで自分が作った料理にでも言うようだった。
「秋斗が作ったわけじゃないでしょ」
思わず憎まれ口を叩くと、かわらないな、と余裕の表情で笑われた。
何でも解っているみたいな態度に腹が立つものの、良い匂いの立ち上る料理には敵わない。
「いただきます」
料理に罪はないと箸を持ち、お吸い物に口をつけると美味しさに息が漏れた。
家で食事を作るなんてことがほぼない生活のせいか、私の胃が美味しいと素直に受け入れる。
基本、出汁の味には目がないのだ。