春に想われ 秋を愛した夏
私の様子に満足したような顔の秋斗をなるべく気にしないように、黙々と箸を進めていく。
別段空腹を感じていたわけではなかったのに、料理の美味しさにやられた私は、少し時間はかかったもののしっかりと頼んだ料理を完食してしまった。
そして、その満足感につい感想をもらしてしまう。
「ここの料理絶品。久しぶりにしっかり食べたぁ~」
くるしぃ。とお腹をさすっていると、目の前で秋斗がクツクツと笑う。
「な、なによ」
あまりの満足感にふられた相手と食事をしていることをすっかり忘れていた私は、秋斗に笑われたことで急にそのことを思い出し恥ずかしくなってしまった。
「ちゃんと食えるようになって、よかったな」
笑い混じりにそう言われても、意地になってぷいっと顔を背けてしまった。
「子供かよ」
その仕草に更に笑われる始末。
笑われてばかりで反発心が膨れ上がり、無言を決め込んでいたはずなのに自然と口数が増えてしまった。
「だいたい、ご飯に誘った本人が、つまみと日本酒だけって。人の食事の心配している内容じゃないでしょーよ」
ちびちびと日本酒を飲みながら、つまみを口にしている目の前の秋斗へ文句をつけるとしらっとした表情を向けるだけ。
「香夏子も飲むか?」
私が怒っていることをまったく気にもせず、相変わらずの態度で女将にお猪口を頼んでいる。
なんだか、私一人でぎゃあぎゃあ騒ぎ立てていて、バカらしくなってくるほどだ。
そして、ほら。とお猪口を持たされ、つい注がれるままに日本酒を頂いてしまった。
美味しい物には敵わない。
「おいし」
「酒好きも相変わらずだな」
言いながら、秋斗は更にお酒を注ぎ足す。
酒好きなんていわれてまた言い返しそうになったけれど、お酒の美味しさにそんな感情は後回しになった。