春に想われ 秋を愛した夏
解る?
何が?
私の何処をどう解っているというの?
片方の口角を上げて当たり前のように言っているけれど、私の気持ちはきっと理解してなどいない。
解っていたら、こんな風に誘ったりはしない。
私の気持ちを解っているなら……。
歩いているうちに徐々にアルコールが抜けていく。
それと同時にふられた昔の感情が、心の中を切なく燻り始めた。
私、何でふられた相手と仲良く歩いてんだろ。
一緒に食事やお酒まで飲んで。
あの時から時間が経って、秋斗はほとぼりが冷めたとでも思っているのだろうか。
それともやっぱり、あんなことなどもう忘れてしまったとでも言うの?
残念だけれど、私の気持ちは昔から立ち止まったままだ。
あの日秋斗にふられたあの場所から、動けないままでいる。
忘れたくても忘れられないまま、ずっとずっと……。
一体、どうしてまた昔のように私のそばにいるというんだろう。
「何を、考えてるの?」
不意に足を止め、数歩先で止まった大きな背に問いかけた。
「え?」
振り返った秋斗は、私の質問に首をかしげている。
「どうして、私の前に現れたの?」
「どうしてって……。偶然、香夏子を見かけたから……」
「懐かしくなって、声をかけた?」
「ん。まぁ、そんな感じかな」
「お気楽ね」
溜息交じりに零したあとに睨みつけると、秋斗の緩んでいた表情が固まっていった。