宿った命
「んじゃ、俺はもう帰るからさ、
また明日」
固まったままの紗季にそう言って、
俺は踵を返す。
くん、っと。
後ろに引っ張られるような
小さなものを感じた。
「紗季?」
振り返ると、制服の裾を引っ張る紗季がいた。
寝起きで少しうるうるした瞳で
一生懸命見上げてくる。
だからさ、そういうのやめろって。
なんだかわかんない感情が
いっきに上昇する。
こんなこと、今までなかったはずなのに。
紗季といると何故か息苦しくなったりするんだよな。
あー、ほら。
ストップストップ!!
「どした?」
「あ・・・あたしも帰るから
待っててよ・・・・ばか」
頬が赤く染まる彼女。
それは夕焼けのせいだろうか。
それとも・・・。
「わかりました。
ほんとにかわいくないよなー。
素直に帰ろうって言えばいいのに」
「う、うるさい!!」
「はいはい」
別になんでもない日常。
こんなの日常茶飯事で。
紗季が“ばか”とか“うるさい”とかいう時は
大抵逆の意味なのも知ってる。
本気で怒ってるんじゃなくて、照れ隠しなのも知ってる。
あいつのことなら
全部全部、知ってるんだよな。
だけど、俺が知らないことがあるとすれば・・・。
「修平!早く帰ろう?」
「え?あ、ああ」
あの子の気持ちと、俺の気持ち。
それがどんなもので、
誰に向けているのかさえもわからない。
そんなことを考えながら歩いた
高校1年の秋。
1年後も、そのまた翌年も、
ただこうして隣にいられることを願って。
ずっと、君の隣にいられればいいなぁ。
END