【完】『遠き都へ』
安芸から戻って、明日には東京へ帰るという夜、アイビーを借り、

「送別会や」

と酒を大介が理一郎のもとまで持ってきた。

どうやら。

大介の発案らしい。

が。

「そうやって、お酒を飲む機会を増やしたいだけなんじゃない」

あゆみに指摘されると、

「酒は潤滑油ぞ」

酒で世の中うまく回ることだってある…と大介は言い返した。

「優姫ちゃん、ちーと手伝うてくれんかや」

そう言うと、ちょうど来ていた、森岡優姫という女の子にオードブルの支度を手伝わせ始めた。

「あたし運ぶわ」

さすがにセイラが立ち上がると、

「来客を手伝わすほどではないきに」

大介はやんわり制した。

「優姫ちゃんゴメンね、バイト休みなのに」

「いや大丈夫です」

気にしないで、といったようなそぶりをした。

一方で。

理一郎は座敷の上座に座らされると、

「おまんは東京で綺麗な彼女も作って、好きな漫画描いて、いわば夢をかなえた男やきな」

そう言ってタンブラーに酒を注いだ。

しかし。

大介は飲まない。

「何で飲まないんだよ」

そう言うと大介に酒を進め、

「おれが弱いの知ってて飲ましゆうもんなぁ」

とこぼしながらも、大介は機嫌よく口をつけた。

座卓には皿鉢が並び、刺身やら天ぷらやらが盛り付けられてあって、

「次は花見やな」

えらく気の早いことを言った。

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