真紅の空



「あたしだって……怖かった!
 あんな戦場、見たこともなかったもの。
 あんなに殺伐としていて、殺気立った場所、
 現代じゃあなかったから……


 初めて死を間近に感じたわ。
 でも……っ、あんたがその中に立っているって考えただけで……
 自分が死んでしまうよりも怖かった。


 あんたが死んでしまったら、
 あたし……どうしようって……」


ポロリと、涙が零れ落ちた。
その涙が暁斉の手にポタっと落ちて、
はっと息をのむ音が聞こえた。


ふいに暁斉が顔を上げる。


「泣いて、いるのか……?」


フルフルと首を横に振る。
それでも溢れてくる涙は止められない。


暁斉は空いた方の手であたしの涙をそっと拭った。
その優しさに更に大泣きしたくなる。


ポロポロ溢れてくる涙を堪えきれずにそのまま流すと、
余すことなく暁斉が受け止めてくれる。


暁斉は苦しそうな顔をして口を開いた。





「この世に戦がなかったならば、
 お前の涙もなかっただろうか、由紀」





はっと息をのんだ。












この世に戦がなかったならば
   貴女の涙もなかっただろうに













あの時の言葉だ。
この言葉はあたしのためにあったものかもしれないと、
バカなことを思う。


あれは雪姫に向けられたものだと分かっているのに、
同じ言葉を吐いた暁斉に期待する。










ねぇ、貴方は今、誰を思っていますか?












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