真紅の空
*
「由紀!暁!」
また、仁の声がする。
目を上げると、そこは仁の家だった。
古風な和室。
見覚えのある仁の部屋。
ああ、何?また戻れたの?
でも、暁ということは、暁斉も一緒なんだ。
そう思って隣を見ると、暁斉が立っていた。
もう呆けてはいない。
ただ、自分の右手をじっと見つめている。
「良かった。呼んでもどっちも返事がないからびっくりしたよ。
もしかして、あっちに行ってたとか?」
「仁……」
仁は考え込むように視線を彷徨わせると、腕を組んだ。
そしてしばらく口を動かしている。
「本当にタイムスリップってあるんだな。
びっくりだよ。
で、今はこっちに戻ってきてるってわけだろ?」
「仁、信じてくれるの?」
「当たり前だろ。由紀の話なら俺は信じるよ」
にっこり笑う仁。
仁の優しさに胸がチクリと痛んだ。
なんだか、居た堪れない。
「ねぇ!」
はっと気付いて、暁斉の手を掴んだ。
暁斉は驚いて瞳を揺らす。
あたしは暁斉の手を触って口を開いた。
「傷が、どこにもない」
傷だらけのはずの手がとても綺麗だった。
前に戻ってきた時にはそんなに気にならなかったけれど、
戦から帰ってきた暁斉に触れて
その手に傷が沢山あることを知ったからか、
妙に綺麗な手にどこか違和感を感じた。
それからはっとして自分の頬に触れてみた。
傷が、ない。
あたしの矢傷もなくなっていた。
どういうこと?この時代に戻ってくると、
なかったことになるの?