真紅の空






「由紀!暁!」



また、仁の声がする。

目を上げると、そこは仁の家だった。


古風な和室。
見覚えのある仁の部屋。


ああ、何?また戻れたの?
でも、暁ということは、暁斉も一緒なんだ。


そう思って隣を見ると、暁斉が立っていた。


もう呆けてはいない。
ただ、自分の右手をじっと見つめている。


「良かった。呼んでもどっちも返事がないからびっくりしたよ。
 もしかして、あっちに行ってたとか?」


「仁……」


仁は考え込むように視線を彷徨わせると、腕を組んだ。
そしてしばらく口を動かしている。


「本当にタイムスリップってあるんだな。
 びっくりだよ。
 で、今はこっちに戻ってきてるってわけだろ?」


「仁、信じてくれるの?」


「当たり前だろ。由紀の話なら俺は信じるよ」


にっこり笑う仁。
仁の優しさに胸がチクリと痛んだ。
なんだか、居た堪れない。


「ねぇ!」


はっと気付いて、暁斉の手を掴んだ。
暁斉は驚いて瞳を揺らす。
あたしは暁斉の手を触って口を開いた。


「傷が、どこにもない」


傷だらけのはずの手がとても綺麗だった。


前に戻ってきた時にはそんなに気にならなかったけれど、
戦から帰ってきた暁斉に触れて
その手に傷が沢山あることを知ったからか、
妙に綺麗な手にどこか違和感を感じた。


それからはっとして自分の頬に触れてみた。


傷が、ない。


あたしの矢傷もなくなっていた。


どういうこと?この時代に戻ってくると、
なかったことになるの?


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