真紅の空



「そういえば、ないな」


暁斉も考え込むようにして
自分の手をまじまじと見つめる。


不思議。


あのピリッとした痛みも今じゃ何も感じない。
ということは暁斉も痛みは感じていないの?


「なるほど。あっちで受ける傷も
 こっちじゃなくなっているのか。


 タイムスリップって、
 向こうの時代と繋がっているわけじゃないんだな」


仁の言葉に、少しだけ悲しくなった。


あっちで暁斉たちが頑張っているのに、
こっちの世界には何も伝わらないの?


あの傷は生易しいものじゃない。
ちょっと指を切りましたとかそんなレベルのものじゃない。


命がけの傷なのに。
あれは暁斉たちが命を賭けて戦った証なのに。


「あ、暁斉。あたし……」


急にあっちの時代にいた時のことが恥ずかしくなって、頬に熱が宿る。


ぱっと目を逸らして、暁斉の手を離した。
すると暁斉も鼻の頭をかいてコホンと咳ばらいをした。




「なぁ、ちょっと暁は向こうの部屋に行っててくれないか?」


「何?」


「由紀と話したい」



< 102 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop