真紅の空
「おい」
しばらくして、あたしの肩に手が置かれた。
びっくりして我に返る。
暁斉があたしの顔を覗き込んでいた。
気付くと芳さんはいなくなっていて、
部屋にあたしと暁斉の二人きりだということに気が付いた。
静寂が走ったと思ったら、
息を吸い込む音が聞こえた。
「馬鹿か!あんな戦場にノコノコと来るなんて、
死にたいのか!よく考えて行動しろ!
大体、村に来た時にも則暁がダメだと言ったのに来ただろう!
お前は後先考えずに動き過ぎだ!
ここはお前の時代ではない!
戦の最中なんだ!いいか、」
がぁっと捲し立てるように吼える暁斉は
そこで一度言葉を切ると、あたしの肩に手を置いて、
じっと真剣な眼差しであたしを見つめた。
「命を粗末にするな」
はっと息をのむ。
暁斉の表情が歪んでいた。
どこか悲しげに、瞳が揺れている。
「あ、んただって。命を粗末にしちゃいけないわよ」
あたしが言うと、暁斉は眉を顰めた。
「俺がいつ、命を粗末にした」
「信長のためかなんか知らないけどね、
そのために死ねるなら本望だとか、
そんなこと言っちゃいけないわよ。
もっと命を大事にしなさい。
死ぬのが怖くない?
本当は怖いんでしょう?
そうやって、むやみに死を美化しないでよ!」
負けじと言ってやった。
そう思ってふふんと誇らしげに暁斉を見る。
そして後悔した。
暁斉の信念に傷をつけてしまったのかもしれない。
暁斉の表情は更に陰りを見せ、
今にも泣きだしそうな顔をしていた。
静寂が部屋の中に満ちる。
何か言おうとして視線を彷徨わせたけれど、
なかなか言葉が落ちてこない。
静寂を打ち破ったのは、暁斉だった。