真紅の空



「お前の時代には、戦はないのか?」


「えっ?う、うん」


「そうか……良い国になるのだな」


そう言った暁斉は柔く微笑む。
もう、あたしを見てはいなかった。


ただ、その視線を落としているせいか、
泣いているのかと錯覚するほど暗かった。


「俺がこの手で守っている何かが、
 お前の何かであればいいと、ふとそう思った。


 俺がいるから、お前が良い時代で
 何も苦労することなく生きることが出来ているのだと、
 そう思いたい」


「そ、れは……」


「お前は、あの人に似ているな」


暁斉は自分の右手を広げて、
その手を見つめて言葉を落とした。


あの人とは言わなくても誰なのか分かる。
雪姫に、あたしが似ているのだと言っているのだ。


どこがどう似ている?顔?性格?
どれも似ていないような気がするけれど、そうなのかな。


「放っておけない……守ってやりたくなる。この手の内に……」


そこまで言って、はっと息をのんだ。


「すまない。俺は何を言っているのだろうな。忘れてくれ」


「何?なんて言おうとしたの?言って」


「いや、いいんだ」


「この手の内に、何?」


言って。最後まで、言って。
その先に待つ言葉は、あたしの欲しい言葉かもしれないと、
期待が込み上げる。


その声で、言ってしまえ。


そうしたらあたしは喜んで、貴方に手を差し伸べるから。







「好き」







えっ?と思って口元に手を当てる。
今のは、あたしの口から紡がれた言葉だよね。


何であたし、そんなことを口走ったのかしら。


言うつもりはなかった。
それでも、言わずにはいられなかったのか、
落とした言葉は随分とはっきりと聞こえた。



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