真紅の空
「は?」
「暁斉が、好き。好きなの」
呆けている暁斉の傷だらけの手をそっと取って握る。
とても冷たくて、驚いてしまうほどだった。
握り返してはくれないけれど、
時折ピクリとその手が反応するのを見て、
拒絶はしないんだと知った。
「暁斉が雪姫様を好きなのは知ってる。
でも、それでもあたしは暁斉が好き。
だから、戦には行かないでほしい。
死んでほしくないの。
守ってくれなくていいから、
この手の内にいて。
遠くへ行ってしまわないで」
一度落ちた言葉はするすると落ちてくる。
恥ずかしげもなく、はっきりと。
手が、冷たい。
本当に生きているのか問いたくなるくらい、冷たい。
どうしてこんなにも冷たいのだろうと思いながら、
自分の熱を分けてあげたいと思って強く握る。
早く温かいのが伝わればいいと思う。
暁斉は揺れる瞳であたしを見た。
口をパクパクさせていて、何か言いたげにしている。
「好きよ。博仁」
本当の名を呼ぶと、露骨に暁斉の瞳が揺れた。
はっと息をのんで口を開閉させる。
何度か瞬きを繰り返して、喉を鳴らした。
そして一度瞳を強く閉じると、
ゆっくりと瞳を上げた。