真紅の空



「俺、は……」


落ちた言葉は頼りない。
それでも一言一句漏らすことなく拾ってあげたい。
それがあたしを拒絶する言葉でもいいから、
暁斉の言葉は全てこの耳に響いてほしい。


「俺は……人を好いてはいけない。
 信長様にお仕えする武士なのだ。
 この身は、信長様のためだけにあると、そう思っている」


ええ、それが何よ。
暁斉がそう思っていることくらい知っている。


それでも貴方は、雪姫を好きになってしまったんでしょう?


だったら、その熱をあたしに向けてくれたっていいでしょう?


「俺はこの先、妻帯するつもりはない。
 信長様のために戦い、信長様のために散る。
 そういう運命なのだ」


ああ、うるさいな。
この口、塞いでしまえ。


「だからお前の気持ちには―」





暁斉の言葉は最後まで落ちることはなかった。


そっと触れる唇が柔さを教えてくれる。


暁斉は目を際限いっぱいに見開いて固まっていた。


唇を離すと、熱が離れて物足りなさを感じた。
もっと、もっとと欲している自分がいる。


初めて触れた、暁斉の唇。
仁にだって自分からキスはしないのに、
この人に、口付けてしまった。


急に恥ずかしさが込み上げてきて顔が熱くなる。
ぐるぐるとこの口づけの言い訳を考えていると、
暁斉の手があたしの手を振り払った。


「なっ!何をする!」


「な、何って……言わなくても分かるでしょ」


「そうじゃない!何故こんなことをするのかと聞いているのだ!」


「何よ!嫌だって言うの?」


「そのようなことはっ……!」


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