【完】こいつ、俺のだから。
「付き合ってるときは敬語とか使わなかったのに、なんか避けられてるみたいでさみしい」
なに言ってるんだ……この人。
「俺、仁菜と別れて後悔してるんだよ……。もったいないことしたなぁって」
ゆっくりと、近づいてくる足音。
逃げろ。なにか言われるまえに。
お願いだから、あたしの足、動いて。
ポニーテールに手が触れる。
「やっぱ俺、仁菜のこの長い髪好きだな。サラサラしてて、仁菜にすっげー似合ってる」
……ドクンと、胸が音をたてた。
それはずっと、あたしが先輩の好みになるために伸ばし続けた髪。
あぁ、ヤバイ。
体が硬直して、呼吸が止まりそうなほど苦しい。
まずいなこれ……ホントどうしよう。
もし。
もしもホントに、ヒーローとかいるなら、今ってタイミングで助けてほしいものだよね。
ははっ。
頭がうまく働いてないのか、そんなバカげたことを思ってしまった。