【完】こいつ、俺のだから。
そんなときだった。
――パシンッ。
「すんません」
何かを弾く音が聞こえ、あたしはやっと動くことができるようになり、振り返る。
「……っ!」
嘘……。
「俺の彼女に、触んないでください」
そう言ったこいつは、敬語を使ってるけど、目の前にいる先輩を鋭く睨んでいた。
なんで佐野が……?
「へぇ、仁菜の彼氏。そうなんだ。
……邪魔してごめんね」
それだけ言って、先輩は意味深な笑みを残して歩いて行ってしまった。
「…………」
「…………」
取り残されたあたし達は、ふたりきりになって無言。
……うわ、きまず。
ていうか、あんたさっきまでリレーで活躍してみんなに囲まれてたでしょ。
わざわざ抜けてまでして、なんでこんなとこに来てんの……。
あたしは何もなかったかのように、ふっと振り返って歩き出した。
だけどなぜか、佐野も後ろからついてくる。
ついてくる。ついてくる。
無言でついてくる……って。