【完】こいつ、俺のだから。
「勝手でいい、素直になれよ。ワガママ言って、俺を困らせてみろや。
仕方ねぇから、この悠月様が助けてやるっつってるんだよ」
「……っ」
……泣くもんか。耐えろ。耐えろ。
「お前がコケたら俺が何度だって助けてやる。だから我慢すんな。お前の分も俺に背負わせりゃいいだろうが。
……そのために、俺はいるんだから」
――ポロッ。
……なんだそれ。
もう止まらない。
止め方がわからない。
あたしはバッと、両手で自分の顔を覆った。
佐野のせいで、今まで溜まってたあたしの涙が溢れかえってくる。
これはきっと、今日だけの分じゃない。
ずっと、ずっと先輩を想ってたあたしの気持ちも……今涙となって、溢れてくる。
佐野は立ち上がると、あたしの手を掴んできた。
顔を覆ってる手をどかそうとしてきたけど、あたしはグッと力を込めてそれを阻止する。
「手、どけろ」
「……いやだ」
「なんでだよ」
無理やりにでも、
強引にでも、
佐野の手はあたしの涙を表に出させようとしてる。
心の奥にせき止められていた想いを、全部見せろと言わんばかりに。
「見せろよ。お前の顔」
それは、強引なクセに、すごく優しい手だった。