【完】こいつ、俺のだから。
懇願じみた震える声に、あたしの心臓がトクンと音を立てた。
佐野の言葉と、腕のぬくもりが、あたしの鉛みたいに重かった心をするすると溶かしていく。
「っ」
ずっと誰かに、寄りかかりたかった。
佐野はそれを、許してくれた。
だからもう、目の前の広い胸にあたしは全てを委ねることにしたの。
あたしが寄りかかっても、佐野はしっかりと、あたしの全てを支えてくれる。
「……好きだった」
静かな空間の中、あたしはポツリとつぶやいた。
鼻をすする音と、あたしの声だけが、この部屋の中で響いてる。
「先輩のこと、大好きだったのに……っ」
涙が、佐野の体操着を濡らして行く。
汗よりもたくさん、跡をつけていく。
「急に別れるなんて言われて、気持ちの整理がつかない……っ。最低なことされたのに、先輩を見ると、まだ揺らぐの……っ」
痛い。
足も、膝も、心も……全部が痛い。
「そんな自分がイヤで、どうしていいかわかんない……!」
そっと、背中をさすってくれる大きな手が、少しずつだけど、その痛みを溶かしてくれる。
……お前はなにも悪くないって、そう言ってくれてるみたいだった。
「忘れたいのに……、わかんないよ」
ねぇ、だからさ、佐野……。