【完】こいつ、俺のだから。
『なんで教えてくれないの?誤魔化さないでよ、先輩』
ただあの女の人との関係を教えてくれればいいだけ。
恋人なんかじゃない。浮気なんてしてない。
それだけ言って、抱きしめてた理由を教えてくれればいいだけ。
だけど先輩は、教えてくれなかった。
『ごめんって、な?』
『いやっ!』
キスして誤魔化そうとしてきた彼のことを、咄嗟に拒んでしまった。
だって先輩は今まで、あたしにいっさい手を出そうとしてこなかった。
手をつなぐことも、キスも、もちろんそれ以上のことも。
なのになんで、こんなときに無理矢理キスをしようとしてきたの?
『なんでそこで拒むの。本当、意味わかんね』
わからないのはあたしの方だ。
こんな先輩を初めて見た。
怖くて、体が震えた。
『もういいや。そういうのめんどいし、別れよ』
終わりはあまりにも、あっけなくて。
氷のように冷たい声は、あたしの頭から離れることなく何度もリピートされる。
そのたびにあたしの体は硬直して、いつしか笑い方すら忘れてしまった。