【完】こいつ、俺のだから。




……佐野は何を言ってるの?




わからない。


あんたがなんでそんなこと叫んでるのか。



わかるワケない。


だってここからじゃ、あんたは遠すぎる。




ずっとそばで見守ってくれていたヒーローに、あたしは手を伸ばしたい。




……1ヶ月前、佐野は笑えなくなったあたしのもとにやって来て、


強引に、無理やりに、あたしを救ってくれた。



……泣かせてくれた。


……笑顔にしてくれた。



その不器用な優しさで、ずっと近くで見守ってくれていたんだ。



だから……。



今度はあたしが、あんたのそばに行きたい。





「すいません!どけて!!」




あたしは再び、目の前の人達の間を掻き分けていった。




「お前だけなんだよ!あいつ笑わせてやれんのは……!
頼むから、あいつのこと幸せにしてやってくれよ!」




その間にも、佐野の想いが聞こえてくる。



必死になってようやく辿り着いた先には……あたしの好きな男がいた。



そこには先輩と、隣に彩さんもいる。




……ホント、バカじゃないの。




先輩の胸ぐらを掴んまで、一生懸命に、真剣に、まっすぐに……


あたしのことを想って、そんなこと言うなんてズルい。



あんたのせいで、また泣きそうだ。




< 365 / 418 >

この作品をシェア

pagetop