【完】こいつ、俺のだから。
……佐野は何を言ってるの?
わからない。
あんたがなんでそんなこと叫んでるのか。
わかるワケない。
だってここからじゃ、あんたは遠すぎる。
ずっとそばで見守ってくれていたヒーローに、あたしは手を伸ばしたい。
……1ヶ月前、佐野は笑えなくなったあたしのもとにやって来て、
強引に、無理やりに、あたしを救ってくれた。
……泣かせてくれた。
……笑顔にしてくれた。
その不器用な優しさで、ずっと近くで見守ってくれていたんだ。
だから……。
今度はあたしが、あんたのそばに行きたい。
「すいません!どけて!!」
あたしは再び、目の前の人達の間を掻き分けていった。
「お前だけなんだよ!あいつ笑わせてやれんのは……!
頼むから、あいつのこと幸せにしてやってくれよ!」
その間にも、佐野の想いが聞こえてくる。
必死になってようやく辿り着いた先には……あたしの好きな男がいた。
そこには先輩と、隣に彩さんもいる。
……ホント、バカじゃないの。
先輩の胸ぐらを掴んまで、一生懸命に、真剣に、まっすぐに……
あたしのことを想って、そんなこと言うなんてズルい。
あんたのせいで、また泣きそうだ。