甘くない現実

 2月14日。

 バレンタインにチョコレートなんて、お菓子メーカーの販促キャンペーン以外のなにものでもない。

 そんな強がりが言えるほど、僕は大人とも言えず、ともかく今年の彼女の行動が気になって仕方無かった。

 「先輩、ちゃんとストレッチしないと、怪我しますよ。」
 「分かってる。っていうか、ちゃんとやってます。」
 「ウソ。」
 「は?」
 「先輩、さっきからずっと同じとこ伸ばしっぱなしで、校門の方見てましたよね。」

 周りから見た行動は、僕の気持ちが完全にうわの空であることを示していたようだ。

 「帰ってもいい。」
 「は?」
 「用事、思いだした。」
 「なんだそりゃ。」

 どうにも集中できない。理由は一つだ。

 いつもならもう帰っている彼女が、校門を通っていない。それは、まだ教室かどこかに残って、誰かを待っているということだ。
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