リトライ。







ぼんやりとした記憶の中に鮮明に覚えていることがある。





『気をつけ、礼』

『ありがとうございました』


自分たちの引退試合が終わり会場、観客に向けて頭を下げた。

試合に出ていない私が。


来てくれたお母さんと目があった時、とても惨めな気持ちになったのを今でも覚えてる。


ーーダン、ダン、ダン


バスケの音が遠くで聞こえる。


ボールを掴みたくて必死に追いかけてもボールは遠ざかっていく。


待って、どうして。

こんなに走っているのに。


一向に追いつかないボール。


手を伸ばしたらバランスを崩して、私の方が倒れてしまった。


走って走って、全力出したのに。


バスケットボールは遠く、彼方に消えて行った。




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