【続】三十路で初恋、仕切り直します。

法資と偶然再会したあの日。あのときはまだ別れたばかりの長武のことを引き摺っていた。

でも対面に座った法資が黙って愚痴を聞いてくれていいタイミングで酌をしてくれて、追加のお酒まで出してくれて。そのことに気をよくしてどんどん飲んでしまった。

それこそ自分の酒量を超えているなと自覚しながらも、止めることが出来なかった。


「酔い潰したって……なんで?」
「………おまえは本物の馬鹿か?俺はそんなことまで答えなきゃならないのか?」

察しろとばかりに法資の形のいい目が鋭く眇められる。呆けたような顔をしている泰菜をしばらく見詰めると、法資は諦めたように溜息を吐いた。

「……顔突き合わせた初めから酔い潰していいようにしてやろうとか、そういう下種なこと考えてたわけじゃない。おまえが店にやって来て、ひたすら偶然にびびってたしな。俺もあの日の朝帰国したばかりで、おまえも親父からずっと静岡にいるって聞いてたから」


まさか会うなんて少しの期待も予想もしていなかったと、当時の驚きの余韻を引き摺るような声で法資が言う。


「再会したことにも驚いたけど、おまえ見た目が全然変わってないのにも驚いた」
「……そんなのわたしだって、びっくりしたよ」

12年ぶりの再会だということにも驚いたけど、最後に会った頃よりも法資がずっといい男になっていたことにより驚いたということは、悔しいので口に出来なかった。


「着てるものだとか化粧だとかは年相応にそれなりに見られる恰好になってるくせに、喋り方だとか表情とか軽口の叩き方だとか、ガキの頃と何も変わってないんだもんな、おまえ」


それは悪かったですね、と言いながらお湯の中で法資を軽く蹴ってやると、法資は薄く笑いながら言った。



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