【続】三十路で初恋、仕切り直します。
折角披露宴というしあわせなイベントのことを決めていると言うのに、すっかり意気消沈してしまいときおり情けなく涙ぐみそうになりながらもどうにか堪えて『Louison』で打ち合わせを終わらせると、帰り際に伊田から思いがけないものを手渡された。
『新郎さまの桃木様からお預かりしました』
伊田に差し出されたのはちいさな紙袋だった。
『泰菜さんには“恒例の新幹線のお供”だと言えば分かるから、とおっしゃってました』
新幹線の中で紙袋の中を確かめてみると、そこにはいつ用意したのか泰菜のお気に入りのメーカーのチーズ鱈と、お洒落なパッケージに入った有名なブランドのチョコレートが入っていた。
またもやこの組み合わせなのかと薄く笑いながら紙袋を覗くと、やはりそこにはもうひとつ、ちいさな封筒が入っていた。前回は指輪の購入証明書が入っていたけれど、今回はちいさく折りたたまれたルーズリーフが一枚入っていた。
法資からの手紙だった。
出国する数日前に書かれていたようで、そこにはもしかしたら早めにシンガポールに戻らなければいけなくなるかもしれないと危惧する文と、そうなったらすまないという陳謝の言葉が、子供のときから変わらないクセのある字で綴られていた。
それから会場探しのために上京すると決めたとき、まっさきに泰菜が『法資のお母さんのとこ、お墓参りに行こう』と言ってくれたことがうれしかったということ。
せっかくそうやって泰菜が気に掛けてくれたのに、会場選びを優先して後回しにした所為で、たぶんふたりで墓参りに行くことがかなわなくなってしまうだろうということ。今度帰国するときには必ず一緒に行こうということ。
子供のときも月命日のたびに泰菜が母親に花を供えに来てくれたことが子供心にもうれしかったということ。
それからシンガポールに急遽戻ることになるのはとても不本意だけどこの休暇中とても楽しかったと礼を伝える言葉と、打ち合わせで大変だろうけれどあまり無理するなと泰菜を気遣う言葉で締められていた。