【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「俺が……子供だって……?」


心外そうに吐き捨てて、長武は睨みつけるような鋭さで泰菜を見詰めてくる。甘えてくるような表情を一変させた長武にもう一度はっきり言っていた。


「そうですね。子供ですよ、課長は」




付き合っていた頃はいつも長武の機嫌を損ねないように気を遣っていたので、今こうして自分の言動で長武を不快にさせていることにすこしだけ溜飲を下げるような気持ちになる。

自分が彼から受けた仕打ちを思えば、これくらいのことを言うのは許されるかなと思いながら、長武には辛辣に聞こえるであろう言葉を続けた。


「今の課長、20歳近くも年下の奥さんに『俺の言うことを全然聞いてくれない』って言って駄々こねてる、拗ねた子供みたいですよ」





付き合ってる頃は、長武が愚痴を零したり泣き言を言ってきたときは、ただじっくりと話を聞いてあげた。たとえ長武の言うことに違和感や反感を覚えても、反論せずにうんうんと頷いた。


亭主関白気質な長武と上手くやっていくためには、自分が意思表示をすることよりも、彼の心に寄り添おうとすることの方が大事だと思っていたのだ。


でもそうやってなんでもかんでも受け入れて肯定する自分を、長武は退屈で重たい女だと感じていたのかもしれない。そしてそれが若い女の子との気軽な恋へと長武を走らせたのかもしれない。


今になってみると、長武の顔色を伺ってばかりで言いたいことも言えずにいた自分にも非があったと思う。本当に彼を理解したいなら、うわべだけで彼に同調しないで、すこしくらい衝突したとしてももっと言いたいことを言えばよかったのかもしれない。

長武に遠慮ばかりして本音を言い合える関係を築けなかった当然の結果として、長武との別れがあったのかもしれない。今はそう思える。





「しっかりしてくださいよ、課長。こんなところで昔の女相手に管巻いてる場合じゃないでしょう。千恵ちゃんと結婚することに決めたのは他でもない課長なんだから。誰かに頼まれたからじゃなくて、ちゃんと自分で考えて選んだことでしょう。だったら自分で決めたことには、ちゃんと責任を持たなきゃ」


まさか自分が長武に叱咤する日が来るなんて思ってもいなかった。

別れた今のほうが余程素直に本音を言うことが出来るなんて皮肉なことだと思う。長武も同様のことを思っていたのか、「泰菜から説教される日が来るとは思わなかった」とでも言いたそうな顔をする。




< 25 / 167 >

この作品をシェア

pagetop