【続】三十路で初恋、仕切り直します。
再び長武との間に沈黙が生まれた。ふたりきりで向かい合わせに座っているということがやっぱりどうにも居心地が悪くて、自然と店の掛け時計に視線をやっていた。
「……班長たち、まだ来ませんね」
時刻はそろそろ7時になろうかとしていた。夜勤要員との作業の引継ぎがあるにしても随分遅い。
「丹羽くんもどうしたのかしら」
ついでに座卓の下で携帯をチェックしてみるが、法資からの連絡もないままだ。
----------本当に、ものすごく怒らせちゃったんだろな。
そう思ったら思わず、携帯を握り締めて立ち上がっていた。
「課長、すみませんけどちょっと席外します」
パンプスに足を入れてストラップのボタンを留めるのに手間取っていると、背中を向ける泰菜に長武が呟いた。
「泰菜は。……相原は、きれいになったな」
思わず手を止めてしまうと、長武は言わずにはいられなかったとばかりにさらに言葉を重ねた。
「おまえがこんなきれいな女だって付き合ってるときは気付かなかった。……おまえを振ったりした昔の自分をぶん殴ってやりたいよ」
悔いるような長武の声に、もうなんの感慨も沸かなかった。けれどひとつだけはっきりとした実感があった。
--------ああ、もう、本当に終わった恋だったんだな。
未練が残っていたわけじゃない。
けれど長武との破局は、それを覚悟する前に唐突に訪れてしまったから、恋の最期を今までちゃんと看取ってやれていなかったような気がする。
今こうして図らずも別れてからはじめて長武と向き合うことで、もう長武には長武の、自分には自分の、別々の時間が流れていることを感じる。その事実を冷静に、なんの痛みもなしに受け入れている自分がいる。
これでようやく恋の亡骸を見届け葬れるような気持ちだった。
「……さようなら」
すこしだけ晴れやかな気持ちで口にする。