【続】三十路で初恋、仕切り直します。
『桃』が苗字につく男は、泰菜の携帯の登録の中には『桃木法資』しかなかったから、その男が泰菜の恋人だろうと検討をつけたのだと田子は言う。
「それによ、検査の若いのが『グループ検索』ってのやったら、グループ名が絵文字のハートになってるのがあってよ。そのハートマークのグループに登録してあったのは桃木さんだけだったから、こりゃ間違いなくこの人が相原のオトコなんだろうなって……」
「------ああああっ!」
自分でやったことなのに、言われるまですっかり忘れていた。
「んだよ、何照れてやがんだよ」
「て、照れ、?ちが、や、も、もういいですっっ!」
自分が思っていた以上に法資と付き合っていることに舞い上がっていて油断していたようだ。穴があったら入りたかった。むしろ穴がなくとも今すぐ地中に埋まってしまいたい。
ちょっと浮かれ気分で真っ赤なハートを打ち込んだときは、法資の目に触れることなどないと思っていたのに。こんな形で知られてしまうなんて。しかも法資だけでなく、職場のおじさんたちにまで晒されてしまうなんて。
「やめてください、ほんと勘弁してください、だいたい班長、人の携帯、どんだけ勝手に見てるんですか、折角好意で班長に貸したのに最悪ですよっ、信じられない、何なんですかもうっほんと最悪っ!サイテーです!」
恥ずかしくて顔じゅうの血管から沸騰した血が吹き出しそうだった。隣で法資が吹き出した声が聞こえてきて、余計にいたたまれなくなる。もう今日は法資の顔見れないと今の状況を呪いたい気持ちだった。
さらに追い討ちをかけるように三羽烏のおじさんたちが、
「聞いたか、ハートマークだとよ」
「若いねぇ。かわいいことするねぇ、おたくの恋人は」
「お熱いこったなぁ。愛だねぇ、愛されちゃってるねぇ、そうなんだろカレシさんよう?」
などと法資に絡み始めたので、羞恥で震える拳を握ってばん、と強めに卓を叩いた。鈴木たちは驚いて一瞬で口を噤む。
「……で!なんで班長はわざわざひとのツレをこんなとこに呼び出してくれちゃったんですか!」
身を乗り出していっそ射殺すくらいの眼光で班長を睨みつけると、三羽烏のおじさんたちが慌てて宥めてきた。
「まあまあまあ。そう怒るなよ相原ちゃん、班長は相原ちゃんのこと心配してただけなんだから」
「そうそう、相原ちゃんを思ってしたことなんだからよ」
「そんな怖い顔しなさんなってば。な?」
機嫌を取ろうとするおじさんたちにあれやこれやと言われているうちに、ようやく店員がビールを運んできた。