【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「班長、わたしのこと心配してたってどういうことですか?」
人数分のビールを配りながら訊くと、田子は極太の眉毛を寄せていまいましそうに「うるせぇな」と吐き捨てる。
「ほんとにてめぇは気のきかない女だな、そういうのは後回しでとにかく先に乾杯だろが。……おう、お疲れ!」
急に田子がジョッキを掲げたので、他の面々も慌ててジョッキを手にする。グラスを打ち鳴らすと仕方なく泰菜もビールに口をつけた。腹は立っていても、仕事あがりの一口目は疲れた体にとびきり染みる。
法資が来た時点で車で帰ることは諦めたので、二口目はぐいぐいとジョッキの半分まで飲み干した。
「おお。いい飲みっぷりだねぇ、相原ちゃん」
ビールを腹に収めて思わずふぅっと嘆息していると、向かいに座った鈴木が泰菜を見て笑った。アルコールが入ったことで適度に場の雰囲気が砕けてきた。田子に詰め寄るならこのタイミングだなと思ったそのとき。
「ご挨拶が遅れてすみません」
泰菜が口を開くより先に法資が軽く腰を上げて会釈をした。それからいつも財布と一緒に持ち歩いているらしい革製のケースから名刺を取り出すと、ひとりひとりに挨拶しながら手渡しはじめた。
「あれま。相原ちゃんの彼氏もウチの会社の人間なのかよ」
宮原がジョッキを抱えたまま言うと、隣の井野が「馬鹿言ってんじゃねぇよ、宮さん」と突っ込む。
「よく見てみろよ、ほら。海外事業部って書いてあんだろうが。ウチの中でも花形中の花形、油ッ臭ぇ俺らと同じなんて言ったら桃木さんに失礼だろが」
「あー、俺らにゃ縁のねぇエリートさんってわけかい」
作業員たちの自虐めいた言葉に、法資はそんな大層なものではないと嫌味にならない程度に謙遜をした後。
「トミタ自動車は何と言っても世界水準の“ものづくり”をしている企業ですから」
と真剣な面持ちで言い出す。