【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「海外で販路を開拓する自分の仕事も、世界のトップ企業と堂々と競える“トミタ・クオリティ”を実現している現場の方々の技術力があってこそ成り立っている仕事です。“日本人ならでは”の繊細で緻密な技術力を持った現場への敬意を、自分のように海外にいる社員たちだって忘れたことはありませんよ」


法資の率直な言葉に、鈴木たちは「よせよせ」などと口ではいいつつも、にやにやとうれしげな笑みを浮かべる。


決して鈴木たちに媚びているように聞こえないのは、揺ぎ無い法資の言葉に彼の仕事に対する熱意や信念を感じ取れるからなのだろう。



--------どうしよう、本当にかっこいいなこのひと。



本当に馬鹿じゃないかと思いながらも、法資のことが誇らしくてデレデレしそうになる頬をそれでもどうにか引き締めていると。名刺を配る法資が、最後の一枚を、一番奥の席にいたそのひとに差し向けた。



「はじめまして」



班長たちと合流してから、ずっと身の置き場がないとでもいうように沈黙していた長武に、法資が丁寧に頭を下げた。

長武を見て、法資は女ばかりでなく男も悩殺してしまうんじゃないかと危惧するくらい魅力的な笑みを浮かべる。ほんっと法資って外面いいよな、などと考えながら。無意識に押し当てた右手の下で、心臓がばくばくと派手に脈打っていた。



「……いつも相原がお世話になっています」



長武と視線を交わし、ほんのすこし互いに沈黙した後。法資は簡単な挨拶を口にした。田子たちにしたような、ごく自然な挨拶だ。思わずほっとする。


さっき長武とふたりきりで話していたところは、最後尾で入店した法資にはあまり見えていなかったようだ。胡散臭いくらい爽やかな表情で長武と話している姿をみる限り、法資が長武に敵意を抱いていたり泰菜に怒っていたりするような様子は見受けられない。



もし長武とのことを変に勘繰られたり、ましてや元彼だと気付かれたらどうしようと内心冷や冷やしていたので、ひとまず安心して残りのビールを心置きなく流し込んだ。





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