ラベンダーと星空の約束+α
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雪解けの春。
柔らかな光と強い風を頬に受け、
色味の乏しい茶色の大地に、芽吹いたばかりの緑を喜ぶ。
紫色に染まる夏。
大地を肌に感じて働く事を喜び、
家族との絆を深め、
青く光るラベンダーの海の中、君と星空に神話の世界を描く。
肩の力の抜ける秋。
燃える様に紅葉する峰々を遠くに望み、
観光シーズンを無事に乗り切った達成感と満足感、
それから実りの季節の妻の美味しい手料理を味わい、腹も心も満たされる。
風雪に閉ざされる冬。
暖炉の炎が揺れる暖かな室内から荘厳な白銀の世界を眺め、
本に囲まれた空間で空想の世界を紙に記し、
緩やかに流れる時の中で君に愛を語る。
幸せな月日が流れていた。
心の水面はいつも凪いで、不安も迷いも感じない。
世界中の幸せを独り占めしているのではないかと、ふと心配になる程の幸福感の中にいた。
紫色に香る北の大地には、俺の望む全てがあった。
ありがとう紫。
最高の幸せをありがとう。
俺の人生の晩年は、ラベンダーの様に鮮やかに色付いて、星空の様に輝いていた。
誰が何と言おうと、俺の人生は間違いなく幸せだった。
ありがとう…愛しい人…
君との幸せな時間を与えてくれた、この心臓にも…ありがとう…
それから…龍さんと、大樹と、瑞希と、家族と………
自分に関わる全てにお礼を言いたい。
心からありがとう…
そして…さよなら……