続・雨の日は、先生と
「それから……これも、唯に言えなかった理由なんだけど、」



言いよどむ先生。

先生がこれから言うこと、何だか少し分かる気がした。



「玲、のことなんだけど。」


「うん。」


「玲のお墓参りに行ってきた。」



先生の頬を、新たな涙が滑る。



「ずっと、勇気が出なくて。ここのところ、ずっと悩んでいたんだ。だけど、これも。唯にプロポーズする前に、けじめをつけておかなくてはいけないことだと思って。自分の気持ちにも。」


「うん。」


「それで、お墓に行って、お花を手向けて。お線香をあげて。そして、手を合わせた。」



まるで、先生が一人きりでお墓参りをする姿が、目に浮かぶようだった。



「お墓は、亡くなった私の子と、同じところだ。」



はっとした。

そうか、先生は。

玲さんが事故に遭った時に、同時に幼いわが子を失っている。


さっきの報告に、泣きながら喜ぶ先生の表情がよみがえる。

だから先生は、あんなに喜んでいたんだね。



「静かに手を合わせて、玲に許しを乞うた。……そしたら、」



先生は、ぽたり、と涙をこぼす。



「玲がね。記憶の中の玲が……微笑んだような気がしたんだ。」



何故だか私の目からも、涙がこぼれた。


伝わってきたんだ。

先生の苦しみが、痛みが。

それから、その瞬間の安堵した思いも。



「私は、唯を愛するたびに、玲に対する後ろめたさを、いつも、感じていた。……それが、どれほど唯を不安にさせるか、気付いていたくせに。」


「……うん。」


「でも、よく考えたら。玲は、そんなやつじゃなかった。……もっと大らかで、そんなことで私を、責めたりするやつじゃなかった……初めて、気付いたんだ。」



先生は、敢えて。

自分の心の中の、一番痛いところを訪ねてきたんだね。

そして、その痛みを受けながらも。

自分なりの結論を出して、戻ってきた。


確かに、私に対して何の説明もなかったのは、先生にも落ち度はあるけど。

だけど、そんな先生を責めることなんて、出来るはずもなくて―――



「唯、何で唯が泣くの。」



先生は、ちょっと笑って。

私の頬の涙を、その綺麗な指先で拭った。



「戻ってきてくれて、ありがと、先生。」


「唯……。」


「それでも戻ってきてくれて、ありがとう。」



過去に浸るんじゃなくて。

思い出に甘んじるんじゃなくて。


ちゃんと先生は、前を向いて。

私の方を向いて、戻ってきてくれた。

それが、何より嬉しい。
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