ヒット・パレード



「…そんな…………」


マスターから聞いた話は、陽子の想像の範囲を遥かに超えたものだった。


ネットのどこを調べても、トリケラトプスの解散の理由は、不明あるいは謎とされていたが、その真実がかくも壮絶な最後であったとは一体誰が想像しただろう。


日本ロック界の大事件とも言える、この解散劇の裏側が世間に公表されなかったのには、生前の前島の意向を森脇が忠実に守り、マスコミに対しての徹底的な隠蔽を施したからという事情がある。


前島 晃は森脇と同じく孤児だった為、その葬儀に参列したのはトリケラトプスのメンバーとマスター、そしてレスポールの一部の常連客という僅かな人数で執り行われただけであった。


「前島君が亡くなった直後の森脇君の荒れようは、そりゃ酷いものだった。毎晩、浴びるように酒を飲んでは潰れる、その繰り返しだったよ」


「分かるような気がします………」


それも、無理もない事だろうと思った。子供の頃からずっと親友で、バンド内でもプライベートでも、最も心を許していた前島に先立たれたのだ。酒の力でも借りなければ、正気ではいられなかったのだろう。


事実、その話を聞いた陽子も、無性に酒が飲みたくなった。


それは、森脇の出演交渉が絶望的に決裂してしまったから?


そうでは無い、そこにはもっと心情的な理由があった。


陽子自身上手く説明は出来ないが、自分が知り合った《森脇 勇司》という人間の、計り知れない程の心の闇を共有してしまったような、どうしようもなく遣りきれない気持ちに陥ってしまった。


そして、酔う事でそれを紛らわしかった。


「マスター、今夜は飲みます!
バーボンをロックで下さい!」



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