ヒット・パレード
マスターが作ったバーボンのロックを受け取ると、陽子はそれをまるで苦い飲み薬でも飲むように、強張った表情で一気に喉に流し込んだ。
直後、喉が焼けるような感覚に、急激にむせる。
「ちょっと、そんなに無理に飲んじゃ駄目だよ」
マスターが、慌てて横のチェイサーの水を勧めながら陽子を宥める。
「すいません……でも大丈夫ですから」
「飲むな」と言っても、簡単には聞き入れそうに無い。マスターは、やれやれ…といった表情で嘆息した。
そして「夜はまだ長いのだから、ゆっくり飲みなさい」と優しく微笑んで言った。
陽子が二杯目のバーボンロックに口を付けたちょうどその時、店内にBGMとして流れていた音楽が止んだ。
見ると、マスターが背中を向け、レコードプレイヤーのレコードを入れ替えているところだった。
新しくかけようとしているアルバムのジャケットには、薪を背負いながら木の枝を杖にし、腰を曲げて立っている老人の絵が描かれている。
タイトルもバンド名も表記されていないそのアルバムジャケットには、陽子にも微かに見覚えがあるような気がした。
「マスター、それ誰のアルバムなんですか?」
「レッド・ツェッペリンⅣ。森脇君が好きだったアルバムだよ」
陽子の質問に答え、マスターはそのアルバムのA面の三曲を飛ばし、いきなり四曲目に針を落とした。
世界を熱狂させた生粋のハードロックバンド。しかしそのイントロのギターの旋律は、ハードロックには似つかない、ゆったりとして美しく、そしてもの哀しい旋律だった。
レッド・ツェッペリン/天国への階段
それは、28年前の前島の葬儀の時、彼の遺影に向かって森脇が弾き語りで泣きながら歌ったバラードであった。
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