ヒット・パレード
それがどれほど困難な課題だったとしても、森脇本人にまだロックに対する情熱が残ってさえすれば、勝負を諦める必要は無い。
しかし、今の森脇にはもう、ロックに対する情熱など微塵も残ってはいないのだろう。
もしも、森脇と前島がロックに関わっていなければ、前島は刺される事も無かっただろうし、また、刺された後に自殺する事も無かった。
ロックは、森脇から一番大切な人間を奪ってしまった。
『俺はもう、ロックからは足を洗ったんだ!』
その言葉が示すように、森脇は28年前のあの日からずっと、ロックに憎しみを抱き続けているに違いない。
だからこそトリケラトプス解散後、ソロ活動という選択がありながらも森脇は28年間、全くロックに関わらなかったのではないか。
陽子は、そんな風に思っていた。
ところが………
「それは違うよ、ヨーコさん」
マスターは、陽子の意見を否定した。
「今夜、Zipのステージを観ていた彼の目を見て確信したよ。森脇君のロックに対する情熱は、昔と少しも変わってなんていない」
「でも、それなら森脇さん、28年間もソロ活動もしていないなんて、不自然過ぎますよ!」
もしも森脇に、ロックに対する情熱がまだ残っているのなら、今までに何かしらの音楽活動をしていてもおかしくない。陽子はその疑問をマスターにぶつけてみた。
するとマスターは、その矛盾についてこう述べた。
「彼とは、長い付き合いだ。森脇君の性格はよく知っている………
トリケラトプス解散後、彼が音楽活動からすっかり手を引いていたのは、何もロックが嫌いになったからじゃ無い。
彼はきっと、自分に罰を与えているのだと僕は思う」
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