ヒット・パレード



「罰?」


陽子には、マスターの言う『罰』の意味がよく分からなかった。


何故、森脇が自分に罰を与える必要があるのか?


彼は、人生で最も大切な親友を失い所属するバンドを解散にまで追い込まれた、言うなれば被害者ではないのか?


訳が分からないといった陽子の表情に、マスターがその理由を話した。


「暴漢にナイフで襲われた時、森脇君は前島君に助けられ、命を救われた。しかし、その結果前島君は左手を負傷しギターを弾けなくなって、それが彼の自殺の引き金となった。

その負い目を、森脇君は今になってもまだ引きずっている。前島君は自分のせいでギターを弾けなくなり、命を絶ったのだと思っているんだよ。

だから、森脇君は自分に罰を与え続けている。
何よりもギターを愛しているのに、それを弾けなくなってしまった前島君。それと同じ苦しみを味わう為に、彼は何よりも好きなロックから敢えて自分を遠ざけているんだ………」


「そんなっ!」


もし、マスターの言う事が本当だとすれば、それは森脇にとってどれほど耐え難い事であろう。そんな仕打ちを、森脇はもう28年もの間、自らに課して来たと言うのか?




「森脇 勇司という男は、そういう男だ。彼はこの28年間、ずっと自分で自分自身を責め続けてきたんだよ」


そう語ったマスターの表情には、なんとも遣りきれない気持ちと、それを誰かに救って欲しい……そんな気持ちとが、入り交じっているように見えた。


返す言葉が思い浮かばず、押し黙ってしまった陽子に、マスターがこんな事を言った。


「ヨーコさんが最初に本田君とこの店へ来た時、君はZipのステージを観て言ってたね………『難しい事は分からないけど、なんだかとっても楽しそう。心から演奏する事を楽しんでいるみたい』だって。
かつてのトリケラトプスのステージも、まさにそうだった。それはきっと、今でも全く変わる事はないと思うよ」



.
< 110 / 201 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop