ヒット・パレード
幾多もの流れ星のように見える街のネオンを、走るタクシーの窓からぼんやりと眺めながら、陽子は憂鬱な気分で今夜のマスターの話を思い返していた。
『森脇 勇司という男は、そういう男だ。彼はこの28年間、ずっと自分で自分自身を責め続けてきたんだよ』
森脇にとっては、きっとそれが前島の死に報いる彼なりのやり方なのだろう。しかし陽子には、それでは何かが違う……と、思えて仕方が無かった。
「本当にそれでいいの?……」
自然と陽子の口から溢れたそんな独り言に、タクシーの運転手が片眉を上げて尋ねる。
「あれ、お客さん、道違いましたか?」
「いえ、独り言です。気にしないで………」
それにしても、今夜は飲み過ぎた。
新しいアーリータイムズのボトルは、帰る頃にはもう殆ど空になっていたような気がする。
こんなに、後味の悪い酒は初めてなんじゃないか?
明日は休日。そして、休みが明けたら、本田に今夜の出来事を報告しなければ………
もう、どうでもいっか。そんな事………
後部座席の背もたれに体を放り投げるようにして、なかばヤケになりながら不貞腐る陽子を乗せて、タクシーは繁華街を抜け少し静かな住宅街の方へと進んで行った。
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